コールセンター現場のためのCRMソフト「inspirX5(インスピーリ ファイブ)」、最新バージョン5.1をリリースしました ~社長コラム 第3回~

2016年7月5日に当社のIT製品であるinspirX(以下「インスピーリ」)のバージョン5.1をリリースしました。インスピーリはコールセンターなどで顧客とのやり取りを記録するために利用するソフトウェアです。  今回のコラムはこのインスピーリ開発への思いのようなものを書かせていただきます。

■インスピーリの卵の誕生

 200x年のことです。国民のほとんどの方が知っているある有名企業がEコマースをスタートさせました。当社は運よくコールセンターのコンサルティングからコールセンターのIT、更にはコールセンター運営の完全アウトソースまで一気通貫でプロジェクトを受注させて頂きました。当初はその企業の幹部の方々とECのあるべき姿をディスカッションしたり、ECにおけるコールセンターの本質的な使命とは何か?を定義するところからプロジェクトをスタートし、そのビジョンやミッションから業務を設計していきました。業務を設計するのと同時にその業務を支援するシステムも並行して設計しました。業務とシステムは一体です。別々に設計するのではなく、並行して設計することでミッションを達成するための業務システムが理論的に組み立てられるのです。  有名企業でしたので、コールセンターにも電話やメールが殺到することが予想されました。そして「昨日送ったメールの件で!」と"電話"が来ても、該当するメールを見ながら電話で応対しなければなりません。また、その電話やメールはコールセンターにいるオペレーターの誰でも処理できる環境でなければなりません。そのようなシステムは、当時存在していなかったので、当社で設計し開発することにしました。そして、メールと電話の応対が一元的に管理できるシステムが完成したのです。インスピーリの卵の誕生です。その後、パッケージ製品として何度も手直しを行い、機能追加をして現在に至っています。

■インスピーリ5の基本的な考え方

 日本のコールセンターの6割は問い合わせ中心のセンターだと言われています。欧米と違って日本では問い合わせに対して丁寧に対応しています。その問い合わせセンターで対応している内容は、概ね8:2の法則、即ちパレートの法則に従っています。8割の量は、2割の種類になっているのです。その同じような問い合わせを沢山のオペレーターが日々、毎時間対応しています。  我々はそのパレートの法則に着目してシステムの機能を掘り下げました。それが「インスピーリ」のバージョンのひとつである「inspirX5(インスピーリ ファイブ)」の開発コンセプトです。  8割の同じような問い合わせを処理するのと、2割の量ではあるものの様々なパターンが存在する問い合わせを処理するのとでは、必要となるシステム機能も異なるだろうという仮説に基づいて機能検討をしています。前者の8割の量を「ボリューム80」、後者のレアケースの2割を「ロングテール20」と呼び、それぞれ違った切り口で機能を検討します。その機能検討で特に意識しているのが、「そのシステム機能の効果はどう現れるのか?」という目指す効果からブレイクダウンして機能を検討するということです。  例えば、ボリューム80(同じような問い合わせを大量に処理する時)は、如何に効率的に素早く処理できるかが重要となりますので、システム機能の効果は最終的には人件費の削減(1人当たりの処理量の増加)ということになります。一方、ロングテール20は、覚えきれないほどの様々なパターンの問い合わせを処理したり、イレギュラーケースを処理したりすることになるわけですから、システム機能の効果は、誤った処理やミスの撲滅であったり、新人、ベテランでも同じ対応ができるような品質の均一性の担保だったりするわけです。  システムの評価はシステム機能を一覧化して、機能毎に〇×をつけて機能の充足度を製品ごとに比較することが多いと思いますが、たまに使う機能があるかないかということよりも、両製品とも〇が付いているけれども「毎日・毎コール毎に絶対使う機能を現場で使用したときに、効果はどちらの製品のほうが大きいか?」を比較し、できれば人件費などの金額や数字にして費用対効果を検証するようなことも必要ではないかと思っています。

■インスピーリ5.1の追加機能、改善箇所について

<ボリューム80>  前述のとおり同じような問い合わせを如何に効率的に処理するかを支援する領域です。オペレーターは毎回同じような問い合わせを受け付け、回答して、そして質問と回答内容をシステムに登録して終了します。これを繰り返しています。そこの効率性を上げるためにシステムはどうあるべきかを考えました。  例えば、今回「さっきの案件」という機能が追加されました。同じような問い合わせを処理しているのですから「これと同じ問い合わせ内容をさっきも処理した」ということが沢山あるということです。同じ内容をいちいち毎回登録するのは無駄です。「さっきの案件機能」は、そのような繰り返しくる問い合わせを「さっきの案件」としてチェックしておくことで、次に同じ案件が来たときにはそのボタンひとつでコピーできる機能です。  そして、コールセンター現場の調査結果から、顧客とのやり取りを入力する画面に細かな改善をしています。受電のたびに画面のあっちこっちを見なければ答えられないとか、画面を何回もスクロールをしなければならないなど、現場オペレーターが使いづらいシステムではいけないという観点です。ちょっとしたことですが、一人が1時間に何本かの電話を処理し、それを7時間繰り返す。そしてそのような人が数百名いて、365日業務をしている。そんな状況の中の1本1本の処理です。スクロールさせないために1画面の面積を大事に設計したり、スクロールではなくクリックで画面の一部が折りたためたり開いたりする機能などを開発しています。  このような機能の積み重ねで、1本の電話の処理が30秒短縮できたとします。500人のコールセンターで、運営時間が10時間、365日運営していると仮定し、一人が一時間に5本処理するとします。その1本の電話を30秒(0.5分)短縮できた場合の人件費削減分は、
0.5分×5本×10時間×500人×365 日≒76,000時間 76,000時間×時給2000円 = 1億5千2百万円
となります。
<ロングテール20>   ボリューム80の逆です。問い合わせの量は全体の2割程度ですが、様々なパターンの問い合わせや複雑な問い合わせなどがこの領域です。いわばレアケースです。レアケースの対応は、その後顧客のクレームに発展する可能性があるなど、処理を誤れば何度も顧客とやりとりが発生するなど、コールセンター側で最も頭を悩ませる領域です。  このロングテール20を処理するための支援機能は、ボリューム80の支援機能とは全く逆です。効率性を重視するのではなく、レアケースを処理する上で必要な機能を考えなければなりません。  レアケースにもいろんなパターンがあります。ある重要な顧客からの電話は特に注意深く処理しなければならない場合、その顧客からいつ電話がかかってきて、誰が応対するかわかりません。例えば50万人いる顧客の中で、数千名が特別対応の必要な顧客だったとしても、オペレーターとしては繰り返しボリューム80の処理をしている中で、突然、該当顧客に対して特別対応をするというのは現実的には不可能です。そもそもその顧客が、特別対応をしなければならない顧客かどうかも気が付かないかもしれません。そこで、インスピーリでは、あらかじめ顧客のデータベースにアテンションフラグというフラグを設定できます。管理者が顧客毎にそのフラグ(マーク)をつけておくと、オペレーターが受電時に顧客対応画面を開いた際、あらかじめ設定した色でコメントが目立つ表示がされます。
  このアテンション機能によりオペレーターは、突然該当顧客から電話が来ても気が付くことができます。
アテンションエリア機能
コールセンターではオペレーターは電話をしながら画面操作をしています。また、管理者はモニタリングと言って顧客とオペレーターの通話を聞くことができます。  モニタリングをしているときに管理者がオペレーターに指示を出したいときがあります。そして逆に、オペレーターから管理者になにかアドバイスを求めたりしたいときがあります。その場合、通常メモ書きなどで対応するしかないのですが、インスピーリにはチャットの機能がついています。顧客対応中なので話はできませんが、チャットはできます。チャットを通して管理者から「そろそろ難しくなってきたので、専門のチームに転送しなさい」という指示も出せますし、オペレーターから管理者に「この場合、○○と答えていいですか?」という質問や応援依頼などもチャットを通じて可能です。

■インスピーリの今後

 日本におけるコールセンターの人件費は概ね1兆円だと考えています。設備や通信費、システム費用などが別途1兆円としますと、2兆円がコールセンターの運営費です。その6割が問い合わせセンターなので1.2兆円が問い合わせにかかっている費用ということになります。  コールセンターのユーザーである消費者、生活者は、そもそもコールセンターに電話などしたくないと思っている方々も多くなりました。スマホで自己解決したいとか、あるいはそもそも電話しなければならないような疑問がないほうがいいと思っています。一方、企業側も今後の人件費の高騰リスクや現状の高額運営費などの問題を解決したいはずです。
 当社は、このテーマについて
1):疑問の根源を無くしてそもそも問い合わせの発生原因を撲滅する 2):疑問が出たらスマホなどで好きな時間に自己解決できる環境を用意する 3):ショートメッセージやLineなどのチャネルを有効利用して解決の利便性を高める 4):最終的には人がコールセンターで効率的に対応する
 というステップで考えています。既に3)のショートメッセージ対応やLine対応は実施済みですが、新チャネル以外にも1)に向けた分析を支援する機能や、2)などではAIなども活用しなければならないと考えています。  今後も、クライアント企業のコールセンターに結果で貢献できるソフトウェアを提供していきたいと思います。